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在宅の褥瘡ケアの考え方 ― 予防・体圧分散・栄養とご家族との連携
在宅の褥瘡ケアは、できた傷を処置することよりも、褥瘡ができにくい暮らしを利用者さん・ご家族・福祉用具の事業者と一緒につくることが中心です。看護師が訪問するのは限られた時間で、残りの時間を支えるのはご家族やヘルパー、そしてマットレスです。この記事では、病棟とのちがいに注目しながら、訪問看護師として持っておきたい考え方を整理します。処置の手順や薬剤の選び方には触れません。
褥瘡はなぜできるのか
日本褥瘡学会の一般向けの解説では、褥瘡は寝たきりなどで体重に圧迫された場所の血流が悪くなり、皮膚の一部が赤くなったり、ただれたり、傷ができたりすることだと説明されています。皮膚の表面だけでなく、骨に近い深い組織が傷ついていることもあります。
同じ解説では、なりやすい人として、自分で体位変換ができずに長く寝ている、栄養状態が悪い、皮膚が弱くなっている (排泄物や汗による皮膚のふやけ、強いむくみなど) といった状態が挙げられています。圧迫だけでなく、摩擦やずれの刺激がくり返されることも原因になるとしています。
つまり褥瘡は「皮膚の問題」であると同時に、「どれだけ動けるか」「食べられているか」「排泄をどう処理しているか」という暮らし全体の問題です。ここに在宅ならではの難しさと、やりがいがあります。
予防の4つの柱
日本褥瘡学会の一般向けページ「褥瘡の予防について」は、予防を体位変換、体圧分散寝具、栄養、スキンケアの面から説明しています。訪問看護の目線で言い換えると、次のようになります。
| 柱 | 訪問で見ること | 一緒に考える人 |
|---|---|---|
| 体位変換 | 寝ている姿勢、クッションの当て方、ずれ | ご家族、ヘルパー、リハビリ職 |
| 体圧分散 | マットレスの種類と状態、身体に合っているか | ケアマネジャー、福祉用具専門相談員 |
| 栄養 | 食事の量、体重の変化、むせ | ご家族、主治医 |
| スキンケア | 皮膚の乾燥や湿り、おむつの当たり方 | ご家族、ヘルパー |
体位変換と体圧分散
病棟では体位変換は看護師や看護補助者の仕事ですが、在宅でそれを一日中担うのはご家族です。学会のページでも、体位変換の間隔の目安は体圧分散寝具の種類などによって変わると説明されています。だからこそ、在宅ではマットレス選びがとても大きな意味を持ちます。
同じページでは、自分で体位変換ができない人には圧切替型のエアマットレスが勧められていること、骨の突出などを考えて多層式のエアマットレスを選ぶことも書かれています。
訪問看護師が見るのは「マットレスがあるかどうか」だけではありません。空気が抜けていないか、背上げのときに身体がずり下がっていないか、ご家族が無理な姿勢で体位変換をしていないか。ご家族の腰を守ることも、ケアを続けるための大切な条件です。
栄養
学会のページは、褥瘡予防の栄養管理の基本を「低栄養の回避、改善」としています。在宅では検査の結果がいつも手元にあるわけではないので、食事の量、体重の変化、服のゆるみ、むせ込みなど、暮らしの中の手がかりが大切になります。食べる量が落ちてきたと感じたら、主治医やケアマネジャーに早めに共有します。
スキンケア
尿や便による皮膚のふやけは褥瘡につながりやすいこと、皮膚はこすらずにやさしく洗うこと、乾燥を防ぐ保湿が大切なことも、学会のページで説明されています。おむつの重ね使いや、パッドの当て方の癖は、実際に訪問してはじめて気づくことが多いところです。
評価の考え方 ― DESIGN-R®2020
褥瘡ができたときの状態の評価には、日本褥瘡学会のDESIGN-R®2020が広く使われています。学会の説明によると、DESIGN は2002年に発表され、2008年に項目の重みづけを見直した DESIGN-R® となり、2020年の改定で「深部損傷褥瘡 (DTI) 疑い」と「臨界的定着疑い」が加わりました。
評価の項目は、深さ (Depth)、滲出液 (Exudate)、大きさ (Size)、炎症/感染 (Inflammation/Infection)、肉芽組織 (Granulation)、壊死組織 (Necrotic tissue)、ポケット (Pocket) です。評価用紙には、深さの点数は合計に加えないことも明記されています。厚生労働省の介護分野の様式「褥瘡対策に関するスクリーニング・ケア計画書」でも、褥瘡の状態の評価にはこの「DESIGN-R2020 褥瘡経過評価用」を参照するよう書かれています。
在宅でこの物差しが役に立つのは、訪問する看護師が日によって変わっても、同じ基準で経過を比べられるからです。評価を記録に残しておくと、主治医への報告や、皮膚・排泄ケアの専門家に相談するときにも話が早くなります。採点のしかたは、学会が公開している評価用紙とコンセンサス・ドキュメントで確認できます。
在宅ならではの連携
福祉用具とケアマネジャー
介護保険の福祉用具貸与の対象には「床ずれ防止用具」と「体位変換器」が含まれます。ただし厚生労働省の資料では、要支援1・2と要介護1の方は、これらが原則として保険給付の対象外とされています。そのうえで、日常的に寝返りが困難な方などは、要介護認定の調査結果にもとづく判断や、医師の所見をふまえて市町村が確認する手続きによって、例外的に給付できる仕組みがあります。
状態が急に変わったときに「要介護度が軽いから使えない」とあきらめず、ケアマネジャーに相談する。制度の仕組みを知っている訪問看護師だからこそできる支援です。
ご家族
ご家族は毎日の観察者です。学会の解説では、赤くなった部分を人差し指で軽く押して白っぽく変わるかを見る「指押し法」が紹介されており、押しても赤みが消えない場合は初期の褥瘡と考えるとされています。圧迫をとっても褥瘡の可能性があると考えられるときは、医師または看護師に相談するのがよいとも書かれています。
こうした見方をご家族と共有し、「気になったら連絡してよい」と伝えておくことで、悪くなる前に手を打てます。完璧なケアをお願いするのではなく、続けられる方法を一緒に探すのが在宅のやり方です。
よくある質問
褥瘡ケアの経験が少なくても訪問看護で働けますか?
はい。リンク訪問看護ステーション伊丹では、ストマ・褥瘡処置などの医療処置にも対応していますが、訪問看護が未経験の方には慣れるまで同行訪問でサポートし、十分に慣れてからひとりでの訪問を始めます。病棟での観察や体位変換の経験は、そのまま在宅でも生きます。
褥瘡かどうかは誰が判断するのですか?
診断と治療方針は主治医が決めます。訪問看護師は皮膚の状態を観察・評価して記録し、主治医に報告します。DESIGN-R®2020 のような共通の物差しで伝えると、離れた場所にいる主治医にも変化が伝わりやすくなります。
マットレスを替えたほうがよいと思ったときは?
ケアマネジャーに相談し、福祉用具専門相談員と一緒に選んでもらいます。要支援・要介護1の方でも、状態によっては例外的に給付できる仕組みがあるので、まずは相談することが大切です。
ご家族にどこまでお願いしてよいのでしょうか?
ご家族の体力や仕事、ほかの家族の介護なども含めて考えます。体位変換やおむつ交換の負担が大きいときは、ヘルパーの利用や福祉用具の工夫をケアマネジャーと検討します。
在宅の褥瘡ケアは、傷を見る力に加えて、マットレスや食事、ご家族の暮らしまで視野に入れるところに面白さがあります。どんな利用者さんを訪問しているのか、実際の現場の雰囲気を知りたい方は、見学の申し込みからお気軽にどうぞ。


