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認知症の方への訪問看護で大切にしたい考え方 ― 意思決定支援と家族支援
認知症の方への訪問看護では、「本人には意思があり、意思決定能力がある」ことを前提に、本人の思いをくみ取り、暮らしの中で実現していくことが土台になります。2024年に施行された認知症基本法も、厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」も、この考え方に立っています。本人が慣れた自宅で、時間をかけて関われる訪問看護は、それを実践しやすい場でもあります。
認知症基本法が示す方向
「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」は2023年6月に成立し、2024年1月に施行されました。法律の基本理念 (第3条) には、次のような内容が掲げられています。
- 全ての認知症の人が、基本的人権を持つ個人として、自らの意思によって日常生活と社会生活を営むことができるようにする
- 認知症の人の意向を十分に尊重しながら、保健医療サービスと福祉サービスが切れ目なく提供される
- 認知症の人だけでなく、その家族等への支援も適切に行われる
ガイドラインでは、この法律にもとづく認知症施策推進基本計画 (2024年12月閣議決定) が示した「新しい認知症観」にもふれています。認知症になってからも、一人一人にできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で希望をもって自分らしく暮らし続けられる、という考え方です。
意思決定支援ガイドラインの考え方
ガイドラインは2018年に策定され、2025年3月に第2版になりました。特定の職種に限らず、本人の意思決定の支援に関わる全ての人が使うものとされていて、訪問看護師もその一人です。
4つの基本原則
- 本人の意思の表出: 日々の暮らしは意思決定の連続であり、思いを伝えることを支える
- 本人の意思の尊重: 一見すると意思決定が難しそうに見える場合でも、まず本人が表明した意思や好みを確かめる
- 意思決定能力への配慮: 能力を固定的に考えず、保たれている力を引き出す。能力は支援する人の関わり方によっても変わる
- チームによる早期からの継続的支援: 本人・家族・医療や福祉の関係者がチームになり、繰り返し確かめる
支援のプロセス
支援は、人的・物的な環境を整えたうえで、「意思形成支援」「意思表明支援」「意思実現支援」の順に進めます。なお、このガイドラインは、本人に代わって第三者が決める「代理代行決定」の手順を示すものではないとされています。
訪問の場面で心がけたいこと
ガイドラインには、日々の訪問でそのまま意識できる留意点が多く書かれています。
- 慣れた場所で話す: 初めての場所では緊張や混乱で意思を表しにくいため、なるべく本人が慣れた場所で支援することが望ましいとされています。自宅への訪問は、この点で強みがあります
- 開かれた質問を使う: 「外出しますか」ではなく「今どんなことをしたいですか」のように、「はい・いいえ」で終わらない聞き方をします
- わかりやすく、何度でも: わかりやすい言葉でゆっくり説明し、必要に応じて文字や図も使います。説明を忘れることもあるので、その都度ていねいに伝えます
- 言葉以外のサインを読む: 身振り手振りや表情の変化も、意思表示として読み取る努力をします
- 急がせない: 集中できる時間帯を選び、疲れているときは避けます。本人には決めない自由もあります
- やりすぎない: 本人が自分で決められることにまで介入しないよう気をつけます
また、本人の意思は時間や状況で変わることがあるため、繰り返し確かめ、生活に影響する支援をしたときは記録に残すことが大切だとされています。
BPSD (行動・心理症状) の捉え方
厚生労働省は認知症施策のページで、本人主体の介護を行うことで、行動・心理症状 (BPSD) を予防できるような形でサービスを提供することが求められている、としています。
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針 (各論編)」では、BPSDの治療について、薬による日常生活動作への影響が出やすいことから、緊急の対応が必要な場合を除き、まずは薬以外の対応を行うことが望ましいとしています。環境の調整、介護者へのサポート、介護保険サービスの導入なども効果的とされています。
訪問看護師にできるのは、行動の背景にある体調の変化や、環境・関わり方の変化を観察し、主治医やケアマネジャーと共有することです。また、運営の基準では、利用者さんやほかの人の生命・身体を守るために緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束などをしてはならないと定められています。
家族への支援
ガイドラインでは、家族も本人の意思決定を支える大切な存在とされています。一方で、家族は本人の意思と向き合いながら悩み、本人と家族の意見が対立することもあります。
そうしたときは、専門職が家族の悩みや対立の理由を十分に確かめたうえで、本人の意思を尊重し、家族の意思との調和を図っていくとされています。家族が不安を抱えないよう、必要な情報をていねいに説明することも支援のひとつです。毎回の訪問で、介護をしているご家族の表情や疲れにも目を向けたいところです。
地域の資源とつなぐ
本人と家族を支えるのは、訪問看護だけではありません。厚生労働省は、次のような取り組みを進めています。
- 認知症初期集中支援チーム: 医療・介護の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人とその家族を訪問し、初期の支援を包括的・集中的に行う
- 認知症カフェ: 認知症の人や家族が、地域の人や専門家と情報を共有し、理解し合う場
- 認知症ケアパス: 状態に応じて、いつ・どこで・どのような医療・介護サービスを受ければよいかを地域ごとに示したもの。お住まいの市町村の高齢者福祉担当部局や地域包括支援センターなどで確かめられます
よくある質問
認知症が重い方には、意思決定支援はできないのでは?
ガイドラインでは、認知症が重度であることなど、症状の度合いによって意思決定支援を行わないことがないようにするとされています。言葉だけでなく、表情や身振りからも思いをくみ取ります。
本人と家族の希望がちがうときは、どうしますか?
家族の悩みや対立の理由を十分に聞いたうえで、本人の意思を尊重しながら、家族の意思との調和を図ります。ひとりで抱えず、ケアマネジャーなどのチームで話し合うことが大切です。
意思決定支援ガイドラインは、看護師も対象ですか?
はい。ガイドラインは特定の職種や場面に限らず、認知症の人の意思決定支援に関わる全ての人が使うものとされています。
まとめ
認知症の方への訪問看護は、本人の「こうしたい」を暮らしの中で支える仕事です。病棟で培った観察力は、言葉にならない思いや体調の変化に気づくときに生きてきます。認知症の方への関わり方やチームでの支え方について聞いてみたい方は、話を聞くだけのカジュアル面談をご利用ください。


