知るLearn仕事を知る

訪問看護の利用者・家族とのコミュニケーション ― 家に入る作法と備え
訪問看護のコミュニケーションでいちばん大切なのは、「ここは利用者さんとご家族の家で、看護師はお客さまとして招かれている」という感覚です。そのうえで、ご家族も支える相手として話を聞き、言葉の行き違いはチームで早めに共有します。万一のハラスメントには個人で耐えるのではなく、事業所として備えることが国の方針になっています。
病院と家では、立場が入れ替わる
病院では、患者さんが病院のルールに合わせて過ごします。在宅では反対に、看護師がそのお宅のルールに合わせます。どの部屋を使ってよいか、物をどこに置くか、何時ごろが都合がよいか。こうした小さなことの積み重ねが、信頼関係の土台になります。
介護保険の運営基準も、訪問看護は懇切丁寧に行い、利用者さんやご家族に療養上必要なことを理解しやすいように説明すること、利用者さんの置かれている環境を的確に把握することを求めています。
家に入るときの心がけ
初回訪問
医療保険の運営基準では、看護師等に身分を証明する書類を持たせ、初回訪問のときと、利用者さんやご家族から求められたときに提示するよう指導することが定められています。名乗り、身分を示し、訪問の目的を短く伝えるところからが看護です。
毎回の訪問で気をつけたいこと
- 玄関での挨拶と、上がってよいかの確認
- 物の位置を勝手に動かさない。動かしたら元に戻す
- 手洗いの場所や、使ってよいタオルなどを確かめる
- ペットや小さなお子さんがいる場合の配慮
- 帰るときに、次回の予定と連絡先を伝える
秘密を守る
訪問看護では、病気のことだけでなく、家計や家族関係など暮らしの事情にも触れます。運営基準は、正当な理由なく業務上知り得た利用者さんやご家族の秘密を漏らしてはならないと定めています。近所の方に訪問先を聞かれても答えない、車の中に書類を置いたままにしないといった配慮も含まれます。
ご家族も支える相手
訪問看護の仕事には、利用者さんへのケアに加えて、ご家族への支援が含まれます。介護しているご家族は、疲れや不安を「自分が頑張らないと」と飲み込んでいることもあります。
話を聞くときのポイント
- ご家族だけで話せる時間を、玄関先などで少しつくる
- 「大丈夫ですか」ではなく、「夜は眠れていますか」など具体的に聞く
- 介護のやり方を否定せず、まずはできていることを言葉にする
- ご本人とご家族の希望が違うときは、どちらかに肩入れせず、両方の思いを受け止める
ご家族の負担が大きいと感じたら、ケアマネジャーに伝えてサービスの組み合わせを見直してもらうなど、ひとりで解決しようとしないことが大切です。
言葉の行き違いを防ぐ工夫
在宅では、説明した内容を確かめ合う相手がその場にいません。行き違いを防ぐために、次のような工夫が役立ちます。
- 大事なことは、口頭に加えてメモや連絡ノートに残す
- 「できること」と「できないこと」を最初に丁寧に説明する
- 不満の言葉を聞いたら、その日のうちに事業所で共有する
- 担当を交代するときは、前任者との約束ごとを引き継ぐ
- 専門用語を避け、ご家族が自分の言葉で言い直せるかを確かめる
特に、薬の飲み方や体調が変わったときの連絡の目安など、ご家族が看護師のいない時間に判断しなければならないことは、紙に書いて見える場所に貼っておくと安心につながります。
ハラスメントには組織で備える
介護現場のハラスメントとは
厚生労働省が公表している「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和4年3月改訂) は、利用者さんやご家族等からの身体的暴力、精神的暴力、セクシュアルハラスメントをあわせて「介護現場におけるハラスメント」としています。マニュアルに掲載された平成30年度の調査では、訪問看護を含む訪問系のサービスでは「精神的暴力」が最も多くなっていました。
一方で、認知症などの病気や障害の症状として現れた言動は、ハラスメントとしてではなく、医療的なケアによってアプローチする必要があるとされています。ただし、その場合も職員の安全への配慮が必要なことに変わりはなく、ひとりで抱えずに報告・共有することが大切です。
国の方針
- 令和3年度の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業者に、ハラスメント対策として必要な措置を講じることが義務づけられました
- 令和8年10月1日からは、法律の改正により、顧客等からの著しい迷惑行為 (カスタマーハラスメント) の防止措置が、業種や規模にかかわらず事業主の義務になりました
個人でできる予防
マニュアルは、職員の年齢や家族構成、趣味などの個人的な情報をむやみに伝えず、業務上必要な範囲以上に近しい距離にならないよう注意することも挙げています。親しみやすさと、仕事としての距離感の両方を持つことが、自分を守ることにもつながります。訪問中の連絡体制や2人での訪問については、1人で訪問する不安とサポート体制でまとめています。
まとめ
利用者さんやご家族との関係は、一度の訪問ではなく、毎回の小さな配慮の積み重ねでできていきます。困ったことをひとりで抱えず、チームで共有できる職場を選ぶことも大切です。リンク訪問看護ステーション伊丹の仕事内容には、健康状態の観察や療養上のケアとあわせてご家族支援が含まれています。募集の詳細は募集要項をご覧ください。
よくある質問
人と話すのが得意でなくても、訪問看護はできますか?
できます。在宅で求められるのは、上手に話すことよりも、相手の話を聞き、説明を丁寧に確かめることです。病棟で患者さんやご家族と向き合ってきた経験がそのまま生きます。
利用者さんとご家族の意見が違うときは、どうしますか?
どちらかに肩入れせず、両方の思いを聞いたうえで、主治医やケアマネジャーとも相談しながら進めます。ひとりで結論を出さないことが大切です。
訪問先で嫌な思いをしたら、どうすればいいですか?
その日のうちに管理者に報告してください。厚生労働省のマニュアルも、職員が一人で抱え込まないようにすることを重視しています。カスタマーハラスメントの防止措置は、令和8年10月1日から事業主の義務になっています。
認知症の方の暴言も、ハラスメントになりますか?
厚生労働省のマニュアルでは、病気や障害の症状として現れた言動は、ハラスメントとしてではなく医療的なケアでアプローチするとしています。ただし職員の安全への配慮は必要で、事業所として対応を検討します。
出典
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 (e-Gov法令検索) ― 第68条 (具体的取扱方針)
- 指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準 (e-Gov法令検索) ― 第11条 (身分を証する書類の携行)・第25条 (秘密保持等)
- 介護現場におけるハラスメント対策 (厚生労働省)
- 介護現場におけるハラスメント対策マニュアル 令和4年3月改訂 (厚生労働省、PDF)
- 職場におけるハラスメントの防止のために (厚生労働省) ― カスタマーハラスメント対策の義務化 (令和8年10月1日施行)


